- インタビュー
ドキドキ・ワクワクで、循環型社会への化学反応を生み出す。 【日本環境設計 岩元 美智彦 会長】
素材を半永久的にリサイクルする革新的な技術と共に、業界はもちろん、世界を巻き込みリサイクルの機運を熱く盛り立てる企業があります。岩元美智彦会長が率いる日本環境設計株式会社です。
今回のWOOMSインタビューでは、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に登場する車「デロリアン」を“ごみ”から再生された燃料で走らせるイベントや「服から服をつくる」をコンセプトのもとサーキュラー・エコノミーを実現するブランド「BRING™」の展開など、次々とリサイクルのイメージを変えていく岩元会長に、独自の取り組みや原動力となっている想いなどを伺いました
岩元 美智彦(いわもと・みちひこ)
日本環境設計株式会社 取締役会長。1964年鹿児島県生まれ。北九州市立大学卒業後、繊維商社に就職。営業マンとして勤務していた1995年、容器包装リサイクル法の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。2007年1月、日本環境設計を設立。資源が循環する社会づくりを目指し、リサイクルの技術開発だけではなく、メーカーや小売店など多業種の企業とともにリサイクルの統一化に取り組む。2015年アショカフェローに選出。著書『「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる』(ダイヤモンド社)。
1から1に再生する革新的な技術の開発。
– 日本環境設計は、2007年にベンチャー企業として一歩を踏み出し、素材を半永久的にリサイクルする技術を開発したそうですが、具体的にはどのような技術なのでしょうか。
繊維商社に勤めていた当時、ペットボトルを繊維リサイクル用に回収して再生してもいつかは焼却され、それにより余分なCO2を出してしまっていました。僕はそれがとても残念で、たったふたりでベンチャー企業を立ち上げ、技術開発の試行錯誤を繰り返しました。僕たちの独自技術はケミカルリサイクルと呼ばれるもので、簡単に言うと製品を原子レベルまで分解し、色や添加物を落として再構成するものです。地球上にあるものはすべて元素でできていて、服も、おもちゃも、実は森も、パンも、レタスも、石油も、原子レベルで見れば似てなくもないんですね。
この技術の優れている点は、1個のペットボトルを1個のペットボトルに、1着の服を1着の服に変換できること。劣化しないので“ごみ”として燃やさないかぎり10回でも100回でも1000回でもぐるぐると循環させられます。プラスチックがまるで悪者のようにとらえられることがありますけど、悪いのは使い捨てにすること。循環させれば、ゴミも減らせるし、資源の有効活用もできます。
大切なのは「正しい」より「楽しい」リサイクル。
– 革新的な技術と共に大きな注目を集めているのが、多くの人を巻き込んで笑顔にしているプロジェクトやイベントの数々です。次々と新たな仕掛けを世に打ち出していく背景にはどのようなお考えがあるのでしょうか。
もともと環境に興味があって積極的に行動してくれる人もいますが、95%くらいは環境に興味がない人や、興味があっても行動に移すまでには至らない人だと思います。正しいだけの話をしても意識や行動を変えることが難しいのは、今までの環境の歴史が語っていますよね。だからこそ「正しい」を「楽しい」に変えることが大切。心からドキドキ・ワクワクできる体験としてリサイクルを発信していきたいんです。
映画さながらに “ごみ”から再生された燃料で走るデロリアンのイベントは、まさにドキドキ・ワクワクしてもらうことが目的でした。「リサイクルに協力して」と言っても人は集まらないけど、「古着を持ってくると、デロリアンと写真が撮れるよ!」と呼び掛けたところ、大勢の人が集まって平気で1時間も待ってくれるんです。本当にたくさんの賛同者と古着が集まりました。「クルマの次は飛行機だ!」ということで実施した「あなたの服で飛行機を飛ばそう」というプロジェクトでは、子ども服を中心に25万着が集まりました。何度もニュースに取り上げられ、「あれ僕たちが飛ばしたんだぜ」と子どもたちは目を輝かせて興奮してくれたそうです。
子どもたちにリサイクルを習慣化してもらう最大の成功例と言えば、運営のサポートをさせていただいている日本マクドナルドさんのおもちゃリサイクルですね。年3回だった回収ボックスの設置は2021年からは通年になりました。先日、僕の講演を聞いてくれた人が「お父さん、もうこれ使わないからリサイクル行こうぜ!」と息子に言われたと感激して教えてくれたんです。子どもたちにはリサイクルを習慣にする力があります。おもちゃリサイクルに関しては、もはや習慣から文化へと育っていますね。
みんなをつなげて、「地上資源」の経済圏を。
– 服から服をつくる「BRING™」や、国内外の様々な企業との連携を実現されていますが、そこにはどのような夢やビジョンがありますか。
僕は、みんなでつなぐ「地上資源」の経済圏を実現したいんですよ。「地上資源」という言葉には、地上にある“ごみ”を循環させた資源という意味を込めていて、石油などの「地下資源」の対極にあるものとして、そう呼んでいます。石油でもダイヤモンドや金など、地下資源を土台にした世界の背後では、常に資源の奪い合いが起きていますよね。でも、地上の“ごみ”を資源に変えて循環型社会を創造すれば、戦争やテロをなくせて、子どもたちも笑顔になれる。そんな地球目線の三方よしを実現したいと思っています。
– 循環型社会に取り組む企業と手をつなぎ、まさにプラットフォームの作り手として注目を集めていますね。
10年ほど前から様々な企業に「あなたの会社にとって循環型社会に向けた課題は何ですか?」と伺ってみると、皆さんがだいたい似通った答えでした。かつ、課題があっても自社だけでは解決できないのも各社同じ。だったら、「みんなをつなげて解決しよう!」と思い立ち、いろんな業界にアプローチして、徐々に輪を大きくしていきました。小田急さんをはじめ、セブン&アイ・ホールディングスさんや良品計画さんなど、多くの企業が積極的に賛同してくれています。国外ではフランスの企業とサステナブルなモノづくりを推進していくための連携も進めますし、フランスという国自体が服を含めた売り残り品などを燃やさないための法律もできました。「地上資源」の循環がグローバルで動き出していることを実感しています。
–「地上資源」の経済圏を一層推し進めていく上で、どのような課題がありますか。
循環型社会を実現するには、今後もっと「地上資源」でできた商品が選ばれる世の中になっていくことが大切だと思います。そのためには、まず商品自体をリサイクルしやすい設計にして「地下資源」の商品と変わらない値段で店頭に並ぶようにしていくことを目指さないとですね。しかしリサイクルしやすいペットボトルでさえ、同じようにペットボトルに循環させることは10%しかできていません。まず、それを実現させて次のリサイクルに進みたいですね。僕がペットボトルのリサイクルを一丁目一番地に掲げる理由がそこにあります。
また僕は、当社とコラボレートするメーカーやブランドに、トッププロダクトでの製品化を検討してほしいと思っています。そうすると消費者の手に取ってもらいやすいですし、評価も得られやすい。物を買うのはやっぱり楽しいことで、そのドキドキ・ワクワクが「地上資源」の経済圏を実現する力になっていくのです。
「リサイクルには夢しかない」と発信していきたい。
– ご自身がドキドキ・ワクワクしながら楽しそうにリサイクルを発信する姿がとても印象的ですが、岩元会長は今後に向けてどのような抱負やビジョンを抱かれていますか。
「リサイクルって、実は夢しかないんだ。だから行動を変えようね。」というメッセージを、ドキドキ・ワクワクする体験と一緒にもっと届けていきたいです。リサイクルのインフラは大人が粛々と作っていけばよくて、やっぱり子どもたちを中心に参加してもらい、意識を定着させることで、行動を変えていくことが大切だと思います。ドキドキ・ワクワクを体験した子どもたちが数年後にはそのまま大人になり、次の循環型社会の主役になっていくのですから。
例えば、小田急さんと一緒に「みんなの古着で駅員さんの制服を作ろう!」というプロジェクトをするのはどうでしょう?子どもたちにとって駅員さんや運転手さんはヒーローですからね。きっと、たくさんの子どもたちが喜んで参加してくれますよ。古着を持ってきたら子どもはロマンスカーに乗れるというのも面白いですね。みんな、ロマンスカー大好きだから。
もし、いつも使っている電車の駅員さんがみんなの服から生まれた制服を着たら、もっと地域に愛される存在になりますよね。制服をシンボルにすることで行動する意味がものすごく違ってくる。循環型社会の実現にもつながっていく。必ずいい社会ができますよ。ぜひ、一緒にドキドキ・ワクワクを作っていきましょう。
interviewer=正木 弾・米山 麗・田村 高志
editor=瀬戸 忠保
photographer=若菜 美帆